外を歩くには、僅かな月明かりが頼りだった。この辺りでは中からの灯りはほとんどない。
 かといって、月は細い三日月。闇に紛れるには丁度いいが、こんなことなら夜でも目を鍛えておくべきだったと思う。
 それでも、感覚だけをたよりにその場所まで向かった。

 廊下はなく、建物だけが続く為、外からこっそりと様子を伺う。窓から覗くと、一人ではないのは明らか。
 二人、いや三人? 後姿しかみえない。遠目なので、詳しくは分からないが、怪しい雰囲気というのは分かる。

「……なら、こ……し…しま…しか……」
「それ……いまから、……ってし…え」

 声が小さい。ぼそぼそとした喋り方は尋常じゃない。こんな場所でしか、こっそり話せない何かを話しているというのだろうか。
 あたしは極力音を立てず、様子を伺った。

 しかし、時間が経つにつれ欲が出てしまう。もっと知りたいという。
 ばれないように、目に見える程度にしか見ていなかったが、少し顔を上げて楽な姿勢で見る。

(あれは、何かの紋章?)

 視野が広がることで見えるものもある。紋章……家紋か、身分の方か。はっきりと見えないが、花の形っぽい。
 花の紋といえば、何があるか?

 そんな風に、何かの手がかりを求めようとしたが、これといったものは特になかった。
 時間が経つにつれ、緊張も薄れ、余裕が生まれた刹那。