そのまま、話も続かず日がまだ明るいうちに、部屋に戻った。
 どんな景色も、どんな人に出会っても、あたしの心は変わらず苦しいままだった。

 誰にも話すことなく、部屋に鍵を閉めて、ベッドの中に蹲る。

「……どうしたらいいのよぉ」

 このまま閉じこもっても無理なことなど分かっている。イリヤだってこの部屋に戻ってくるし、何れ顔を合わせる事になる。



 結論も出ることもなく、悩んでいたら疲れたのか、そのまま眠りこけてしまった。

 部屋は昼間のままなので暗い。
 バルコニーの方に行けば、空は既に細い月の光が僅かに輝いている。

「もうかなり暗いわね。お腹もすいた……ん?」

 離宮のこの部屋からは本宮の一部、隅の方が見える。丁度、死角になりやすい場所でもある。
 でもたまたまこの部屋からはその場所が丸見えになる。

 普段は物置になっていて使われていない場所に微かな光。
 それが可笑しいものだというのは、ずっとここに住んでいるあたしだからこそ分かる事。

「何で、あんな場所で光が?」

 変だと思ったら、すぐに体が動いていた。そのまま部屋から出て行くと、人に出会う可能性がある。
 それなら、このバルコニーから降りたらいい。ロープをたらせば、降りれないこともないし、これくらいなら大丈夫。


 もしもの時のためにと用意していたロープがまさかこんな形で使う事になるなんて。
 まず、下まで下ろして長さを確認する。そして、柱に解けないようにしっかりと括りつける。
 一応念のために、命綱用のロープも用意して、身体に縛った。やっぱり、死ぬのは怖いから。

 下に降りるのは、思った以上に簡単だった。足元には草が生えているので、衝撃も和らいだ。
 体に縛っていたロープを外して、本宮の方へと向かった。