相手はあたしが考える以上に単純な存在だった。

「こ、これは、姫様。このような場所に何か」

 これまでの卑下してきた態度と違い、戦く姿はあまりにも滑稽に見えた。
 所詮、人とは権力の前には無力なものなのか。そう思うと何とも情けなく感じる。

「いや、今どのような議題について話し合っているのか気になって」
「そ、そうですか。今は視察団について話し合っていて……」
「これ、姫様にそのような難しい話など。もっと分かりやすく話されてはいかがか」
「別にそのままでいい」

 あたしが喋らなくても、この者たちは勝手に話してくれる。
 現在話し合っているのは、周辺の国に派遣する視察団についてのはずだが、いつの間にか“姫様に話す事”に論点がずれている。

 まあこの古参の貴族たちが話し合っても、決議を出すのは議員や大臣たちである。あくまでも参考意見にしかならない。
 ただやはり貴族のバックアップがあってこその国なので、意見はかなり重要視されるのだが、それがコレだから……。

 古株たちの仲も現在は2つにわかれている。
 一つは姫様支持派。反対派から突如裏返った者たち。その多くは皇族、ひいてはその上にいる女神様に逆らってはいけないと判断した者たちだ。
 もうひとつは慎重派。反対派の者たちが大人しくなった、過激でなくなっただけで、心の中では邪魔者扱いしているのだろう。
 やはり後継は男児に限るとか、へんな考えを持っていたりするのかもしれない。女神様の国なのにね!



 次第に、あたしが居なくても勝手に話しこんでいるその姿を見て、もうここにいなくてもいいだろうと判断し姿を消す。

 どうやら、情勢は少しずつ動いているらしい。

 反対派は表立った行動を控えるはずだ。これまで落ち着く場所がなかったあたしにしてみれば、それはラッキーなことなのかもしれない。
 頻繁に神殿に逃げなくても済むという事だ。

 ただ、それだけで済むのだろうか?
 すっきりとしない気持ちだけが結局は残されてしまった。