【長】黎明に輝く女王

「なんなの、あれ! 言われるだけ言われて、我慢しなさいっていうの!?」
「さっきも言ったけど、今あそこで手を出したら、相手の思う壺でしょ。一時ぐらいの我慢も大切だよ」

 それはその通り。イリヤの言っていることに間違いなんてない。
 多分あそこでイリヤがいなければ、あたしはあの腐った野郎を拳でぶん殴り、後継者として問題視され始めるのだろう。

 分かっている。分かっているのだけれど、気持ちは抑えきれないの!

「あぁーむしゃくしゃする! こういう時は美味しいモノを食べるに限る! 厨房に行こうっと」
「そうやって自棄食いするんだ……」

 隣で小さく言うイリヤのことは気にしない。
 あたしは足早に厨房に向かう。昼間だったら、離宮じゃなくて本宮の方が立派なはずだから、そちらに行こう。


 本宮は政治の中心。途中、人とすれ違ったりもしたが、あたしの機嫌の悪さを感じ取ったのか、誰も離しかけてこなかった。
 今はそれがとてもありがたい。

「おばちゃん、何か今食べれそうなモノない?」
「おやまあ、セリナ様。それに、えっと……あぁイリヤ様でしたっけ。ずいぶんと機嫌が悪そうですけど」
「そうなのよ! さっき陰険で腐った野郎に会って、むしゃくしゃしているの。だから何か美味しいものない?」

 本宮の厨房で働くおばちゃんはあたしの数少ない本当の味方。
 元気で威勢がいいけど、王宮で働くのだからおばちゃんもそれなりに身分は高い。現在は夫婦そろって王宮で働いている。
 あたしと似たような娘がいるらしく、とても親切にしてくれる。

「セリナ様が好きなお菓子類はまだ作ってないけれど、パイやデザートぐらいならすぐに用意してあげられるよ」

 そう言いながら、あわただしく動き用意してくれる。
 厨房にはほかにも給仕している者たちがたくさんいるが、彼らは一通りの礼をするだけで自分たちの仕事をしている。
 本来はそういうものだろう。