一歩外に出ることは、勇気のいることだった。それに間違いはない。
 離宮は皇宮と違い、プライベート空間になる。しかも主に住んでいるのはあたしとリュカ、それに従事して

いる者たちくらいしかいない。
 これまではあたしの世話をする者たちですら、明らかではないにしろ嫌悪感を感じていたはずなのに、今は

不気味なほどの笑顔。
 これはこれで、ものすごく気持ち悪い。

 メイドたちに笑顔で話しかけられても、苦笑いでしか返せない。
 そんなあたしを見て、声に出さずに静かに笑う男。……本当に他人事のように!

 こんなことになるのが想像できないわけではなかった。だから出るのが嫌だった。


 あぁ、リュカの部屋までこんなに遠かったかしら。
 確かにあたしたちの部屋は、左右両極端に離れている。でも、いつもより足取りも重く、ますます遠く感じ

る。
 そんな感じで、移動するだけで時間がかかり、気分すら重く圧し掛かった。

「どうしたの、入らないの?」
「う……、わ、分かってるよ」