【長】黎明に輝く女王

 夜も更け、辺りは昼間と比べると少し肌寒かった。この時間帯に起きていることのあまりないリュカは星空を見ては、感嘆の声を上げる。
 こうしていれば、何にもない普通の姉弟でいられるのに。
 あたしは何も喋らず、足を進める。その後ろで、やはり何も喋らずにイリヤが付いてきていた。

「はい、もう着替えて今日はお休み」

 ようやく離宮にまで辿り着き、部屋の前まで連れて行くと、握っていた手をそっと離す。
 だけど、離した手は再び、力強く握られる。

「ええ、いやだーおねえちゃん、少しおしゃべりしようよ」
「……もう寝る時間を過ぎているでしょ。子どもは早く寝ないと」

 早くこの場から離れたいあたしの本心を隠して、弟を思う姉を演じる。

「やだやだやだ!!」
「そんな風に言われてもね」

 ここまで、この子が駄々をこねる姿をあたしは見たことがなかった。だって、自分からあんまり関わろうとしなかった。
 このままにしておくべきなのか、どうしようか……。悩んでいたあたしに、救いを手を差し伸べたのは、今まで何にも喋っていなかったイリヤだった。

「お姉ちゃんが僕と一緒にいるのがイヤなんでしょ? なら、今日は遅いから明日会えばいい。時間なら僕が作っといてあげるから」
「は? 何勝手に……」

 続きを言おうとしたら、大きな手で口をふさがれた。

「夜遅いからだめって言っているんなら、明るい昼間ならいいってことだよ。それで我慢できる?」
「うー、分かった。じゃあ、あしたにする」
「そうそう。聞きわけのいい事、じゃあ約束。明日お姉ちゃんがあいている時間帯にこの部屋に来るってことで」