「ほらリュカ。お母さんのところに帰ろう」
「えー、帰ったらおねえちゃん、またどっかに行くんでしょ?」
幼くても、心の中は読めるらしい。まさに考えた通りのことを当てられるが、あたしは怯まない。
周りの人ごみを避け、母親のところまで、つまり、玉座の方まで連れて行った。
「お母さん、リュカが逃げ出そうとしていたから、ちゃんとしていてよ」
父親と会話していたらしい中を割って入って、リュカを前に連れてくる。その間もリュカはずっとあたしのドレスを握ったままだった。
「あら、セリナ。逃げ出そうっていっても、あなたのところにでしょ? ならいいじゃない。あなたがいたらこちらも安心だし」
あたしは困るんだけど! リュカは気付いていないかもしれないが、熱狂的というか、皇位は男児じゃなければ許さないと未だに言っている古参の貴族たちから痛い視線を受けているのだ。
昼の式典のことで、一気にあたしになびいたかと言えばそれは別だ。中にはやはり、リュカの方を推す者だって居るのだから。
だからあたしは、リュカとはめったに会わない。その方が、あたしのためでもあるし、リュカのためだとも信じているから。
「なら、二人はもう休むといい。リュカのつまらないというのも分からない訳でもないし、セリナも今日はいろいろあって疲れているだろう」
「そうね、休みなさい。こちらは大丈夫だから」
「……なら、そうさせてもらいます」
この人たち相手に何を言っても無駄なのは、小さいころからよく知っている。
確かに今日はいろいろありすぎた。多分、明日も何かあるに違いないが、そのためにも早めに休もう。
あたしはリュカを連れて、イリヤと共にホールを後にした。


