【長】黎明に輝く女王

 夜。式典の後には華やかな宴が催される。これまでのあたしは参加することもあまりなく、しても陰で静かに立っているだけだった。
 だが、今日は違っていた。誰からも注目を浴びるホールに立ち、煌びやかなドレスを纏い、姫という仮面をかぶらなくてはならない。

「随分、落ち着いているようだけど」
「心を殺し、物事を客観的に見ると滑稽に思えて仕方ないから」

 隣にひっそりと立つイリヤもこの時ばかりは正装している。ただ、あくまで本人は目立たぬように振舞っているらしいが、その動き一つ一つがあたしから見ても洗練で、逆に目を引く。

「まだ始まったばかりだから、何が起こるか分からないけれど、早くも波乱の予感?」

 周りを見渡し、そうね、と小さく呟いた。
 今ようやく、皇王の挨拶が終わり、後は自由な社交の場。これからどう動くのか、それが見ものである。

 喉が渇き、果物のジュースを一口飲んだ時から、動きは変わってきていた。

「セリナ様、この度はまことにおめでとうございます」
「そうそう、やはり姫様が立太子となられることは想像しておりました」
「いや、なんだ……」

 一人湧いてきたら、後からぞろぞろと湧いてくる古参のじじいに親父ども。こんなときになると、ころっと態度を変える。
 食事や土産、自分が収める領地の特産物などモノで釣ろうとしているものまでいる。