【長】黎明に輝く女王

 高々宰相の初めの挨拶にどれだけ時間を取るんだ。そんな誰でも分かっているようなことを今更長々と言う必要なんてないじゃないか。
 苛立ちがたまるが、周囲を見てもそれはあたしだけのよう。みんな静かに、すごい者なんて笑顔で聞いている。
 あんな親父の言葉を一生懸命聞く連中が居るなんて。むしろそっちの観察の方が楽しい。

「ありがとうございます。さて、続きまして陛下よりお言葉を頂戴致しましょう」

 よ、ようやく終わった。こんなのが延々と続くのなんて、耐えられない。笑顔の、強がりの仮面も剥がれていきそう。
 明るい日差しが入り込み、温かくなる室内。緊張が解かれ、次第に眠気が誘われていく。
 虚ろ虚ろになる意識を必死に繋ぎとめる。ドレスにしわができることも気にせずに、力いっぱい握りしめ、唇は噛みしめて、かろうじて起きていた。

「……この十年の課題は我が国の生活水準の向上のためにどうすればよいか、都市部や農村部での格差の問題を特に重点的に取り上げてきた。かつての水準と比べると、わずかだが成果はある。よって、これからも現行通りの政策で取り組んでいこうと思う。そのためにも次世代の、後継のことは重要になってくるだろう。というわけで、私は第一皇女であるセリナを皇太子に据える」

「えぇ!? そ、それは本当ですか、陛下!」

 刹那、厳かな式にも関わらずどよめきが会場内を支配した。瞬間、現実に戻ってきた意識。

「な、何?」

 驚きのあまり、顔を動かし、周囲を見渡した。そこには何ともおかしな光景が映っていた。
 声を上げたらしい者たちは貴族席に座る齢六十ぐらいであろうじじいどもだけなのだ。今回の式を執り行っている文官、警護する武官、そしてあたしの家族たちは異常なほど落ち着いていた。