イリヤは緊張という言葉を知らないのか、堂々と、むしろ楽しそうに我が父と会話をしている。父親の方もいつになく、笑顔である。
 一人残されたあたしは、除けものにされている。そんな中、ようやく話しかけられた。

「ところで、セリナ。彼は君の持っていた秘玉をもっていると聞いたのだが、本当か?」
「もうフロウから聞いてたのですか。持っているといえば、そうだけど……」
「これ、のことでしょうか?」

 あたしが言うのを戸惑っていたら、イリヤは彼の持つ秘玉を見せた。普通とは違うであろう、それ。
 遠い場所からだったが、父親もその違いに気付いたみたい。

「色がない? 不思議なこともあるんだ。まあ、秘玉の事に関してはすべてその管理者に任せているから、特には何も言わないが」
「それで、こんなことでわざわざ呼んだのですか?」
「……セリナは相変わらずだな。本題は別だ。2か月後に、私の皇位継承10周年を記念して式典が開かれる。そのときに、私の後を継ぐのはセリナだと公表しようと思っている」

 寝耳に水だった。そんな話をあたしは一つも聞いていない。それにあたしは後を継ぐことなんてできやしないと思っている。女であることはもちろんだけれども、あたしの人柄は上に立つ者とは程遠い。それにそんなものとは関係ない世界でこれまで生きてきた。

「突然、何かと思えば。無理じゃないですか? 女だし、こんな性格だし、古貴族には嫌われているし。それなのに、そんなことを突然言われても無理なんだけど! こんな時だけ、親面するのやめてもらえない……あんたたちの都合に付き合わされるのは、もううんざりなのよ!!」

 あたしがそう言っているのに、顔色一つも変えない父親の姿。確かに、姿形を見れば、親だというのは、認めざるをえないけれど、そんなのがあたしの親だなんて、あたしは認めたくない!
 気がつけば、今までためていたものを吐き出し、執務室から逃げ出していた。