「ここから入るのよ。入ってもいいかしら?」
「は、ハイ! 姫様が訪れることはすでに耳に入っています故、どうぞ」

 隣からは思った以上に簡単じゃないかという声が聞こえる。
 今回は向こうから呼ばれていたから簡単だったけど、こっちからアポもなく行こうとするのなら、まあ大変。

「キミ、皇女様なのに入るのにアポとかいるんだ」
「じじいどもが居れたくないんでしょうよ。こんなのはあたしだけで、弟は自由だし」

 そうね、ここらへんからもあたしへの待遇の悪さがよくわかる。今までもこうだったから、もう特に何とも思わないけれど。

 中に入ってから、イリヤは思った以上に興奮気味だった。
 彼曰く、自分たちのいた世界とはまるっきり違うからだとか。美的感覚とかも違うのかもしれない。

「中は左右対称の造りになっているから分かりやすいっていえば、分かりやすいし、分かりにくいってこともあるかもしれないわ。似たような場所が続くからね」
「すごい……こういう装飾品がいっぱいついている建物なんて美術館でしか見たことない」

 近くにある柱に、触ってもいい? なんて聞いてくる。呆れながらいいけどというと、無邪気にぺたぺたと触り始めた。
 背は高いけれど、こういったところは小さな子どものよう。純粋に顔が喜んでいる。
 そんな姿を見て、あたしも笑みを浮かべる。

「離宮と違って、ここは外交の場でもあるから、国の威厳を懸けて造られているのよ」

 進むたびにイリヤはこの調子。階段を登れば、手すりをじっと見つめ、触りながら登る。

 結局、興奮するイリヤを前に、ろくな案内なんて出来なかった。けれど、本人は満足そうにしている。
 喜んでもらえると、あたしも嬉しい。
 こんな感じで、皇王の執務室まで足を運んだ。