準備が終え、部屋で待機していたあたしの元に、イリヤがやってくる。
「時間が来たんだけど……」
扉を開け、そう言ったイリヤはその場に立ちすくむ。
「けど、何?」
「いや、何というか、キミのこういう姿を見るなんて」
そう言われて、自分の姿を鏡越しにもう一度見る。変な格好ではないはずだけど。
「そりゃあ、これが“皇族の正装”だからよ。これまで正装を着る機会なんてなかったからね」
イリヤの言葉に対して、返したのはあたしではなく、母の方だった。
「一年前に、皇王即位10周年の時は?」
「あれは準正装よ。シロラーナの皇族だけの特別なものでね、正装を纏うのは、生後3年たって正式に皇位を授かる時と、皇太子の継承式と、皇帝の即位式、あとは結婚の時と崩御の時。その時々で形は一緒だけど、服の色や装飾品は変化する……今回は、継承式用の正装になるわけ」
長々と説明をする母。確かに、あたし自身知識としては知っているものの、正装するなんて人生で二度目で、一度目の記憶は、あまりない。
「といっても、皇太子の正装なんてこれまで男性用だったからどうするか結構議論されたわね」
「セリナなんて、男性用でも着れるから別にかまわないなんて言って……こんな大切な時に男装するなんて普通言えたもんじゃないわ」
本人であるあたしを余所に、女二人が口々に話す。
あたしとしては、隠したいってほどのことじゃないけれど、それでもイリヤの前で話されるのはとても耐えられなかった。
「ってもういいでしょう! 結局ベースはもとに、女性用にしただけじゃない。結果がそうなんだから、それでいいでしょ」
白に金の模様が施されたドレス。ドレスというには、気品に欠けるぐらい整えられたものだ。
体のラインがよく分かるものなのだが、足は全て隠されているし、腕も手袋で覆われ、露出は少ない。
豪華というわけではないが、上品さの溢れるものになっている。
「うんまぁ、似合っているし、いいんじゃないの? それに、今の話なら今日限りの衣装ということになるんだよね……じゃあ、今日一日じっくり見て堪能しておくよ」
あたしの方に近付き、最後の方は耳元であたしにしか聞こえないような声で、囁く。
その行動にあたしは後ろを向き、せっかく化粧でまともになった顔を手で覆う。なんで、そんなことが、この場で言えるのよ!
様子を伺っていた女たちは互いににやにやしているし、恥かしくてたまらない。
結局、部屋を出たのはそれからしばらくしてからの事だった。
「時間が来たんだけど……」
扉を開け、そう言ったイリヤはその場に立ちすくむ。
「けど、何?」
「いや、何というか、キミのこういう姿を見るなんて」
そう言われて、自分の姿を鏡越しにもう一度見る。変な格好ではないはずだけど。
「そりゃあ、これが“皇族の正装”だからよ。これまで正装を着る機会なんてなかったからね」
イリヤの言葉に対して、返したのはあたしではなく、母の方だった。
「一年前に、皇王即位10周年の時は?」
「あれは準正装よ。シロラーナの皇族だけの特別なものでね、正装を纏うのは、生後3年たって正式に皇位を授かる時と、皇太子の継承式と、皇帝の即位式、あとは結婚の時と崩御の時。その時々で形は一緒だけど、服の色や装飾品は変化する……今回は、継承式用の正装になるわけ」
長々と説明をする母。確かに、あたし自身知識としては知っているものの、正装するなんて人生で二度目で、一度目の記憶は、あまりない。
「といっても、皇太子の正装なんてこれまで男性用だったからどうするか結構議論されたわね」
「セリナなんて、男性用でも着れるから別にかまわないなんて言って……こんな大切な時に男装するなんて普通言えたもんじゃないわ」
本人であるあたしを余所に、女二人が口々に話す。
あたしとしては、隠したいってほどのことじゃないけれど、それでもイリヤの前で話されるのはとても耐えられなかった。
「ってもういいでしょう! 結局ベースはもとに、女性用にしただけじゃない。結果がそうなんだから、それでいいでしょ」
白に金の模様が施されたドレス。ドレスというには、気品に欠けるぐらい整えられたものだ。
体のラインがよく分かるものなのだが、足は全て隠されているし、腕も手袋で覆われ、露出は少ない。
豪華というわけではないが、上品さの溢れるものになっている。
「うんまぁ、似合っているし、いいんじゃないの? それに、今の話なら今日限りの衣装ということになるんだよね……じゃあ、今日一日じっくり見て堪能しておくよ」
あたしの方に近付き、最後の方は耳元であたしにしか聞こえないような声で、囁く。
その行動にあたしは後ろを向き、せっかく化粧でまともになった顔を手で覆う。なんで、そんなことが、この場で言えるのよ!
様子を伺っていた女たちは互いににやにやしているし、恥かしくてたまらない。
結局、部屋を出たのはそれからしばらくしてからの事だった。


