それからというもの、あたしの心は今までになくとても軽かった。
これからのことに自信があるというわけではない。だけど、不安は確実に減っていた。
「平和すぎて、信じられないけど、これが現実なんだから」
最近では、そんなことをよく口癖のように呟いている。そんなあたしを家族たちは微笑ましく見守ってくれる。
イリヤは相変わらずだけど、その心の内が今では少しずつ分かり、“素直になれないあたし”も少しずつ前向きになっている。
壁に掛けられたカレンダーを眺める。一年間の暦が一枚の紙にまとめられたそのカレンダーに、ただ一つ付けた印。
じっと見ないと、気付かないような小さな印は、あたしにとっての運命の日。
――セリナが皇太子として立太子する日。
イリヤがあたしの元から訪れて、まもなくのこと。皇王の名において、後継として指名された日。
もう随分と前の事、けれど鮮明に覚えているあの時の光景、音、すべて。
あの時は、させられている感が否めず、自分が嫌でしょうがなかった。
そんな、あの日の出来事を、あたしはいつまでも忘れない。忘れてはいけない。
いつまでも、胸に留めて、これからの自分への糧とする。
その運命の日に向けて、着々と準備が進められている。
そしてもう一つ、合わせて行われる式典も、あたしにとっては人生の節目になる――。


