【長】黎明に輝く女王

 鈍く響く金属の音。そして、それは一瞬だった。
 誰もが想像できなかっただろう。てのひらから転げ落ちる一つの剣。
 あの一撃で落ちるほどの威力じゃなかった。だが、現実には音をたてて倒れた剣にみんなの視線が集中した。



「どうして、またどうして手加減したの……リクハルド」

 あたしは落ちた剣から目を離せれないでいた。ゆっくりと彼の元に近付き、落ちた剣を反対の左手で取る。

「それが貴方の考えなら、あたしには分からない」

 左手で握った彼の剣を、リクハルドに向ける。練習用の剣だとはいえ、ここで刺せば、重症になるだろう。
 だが、彼はそれに怯える事もなく、座り込み、笑みを浮かべていた。

「これが答えだ、姫様。今回はわざと手を抜いた訳じゃない」
「わざとじゃなければ、あれは本当に貴方の手から落ちたというの? あの状況で」

 あたしはまだリクハルドに剣を向けたままだったが、その状態のままゆっくりと彼は立ちあがった。怯える様子もなく。


「今回のでよく分かった。姫様は上に立たれる王の器をもつお方であると。なら護衛の騎士如きが姫様を傷つけることなんてできない。そう思った瞬間、手から剣が転げ落ちたんだ」


 なんて笑い話をするかのように語る彼の姿に、あたしはもちろん、周りの騎士たちでさえ何も言えなかった。

「前回は感情のままに、ただ相手を打ちのめすことしか考えていなかったが、今回は違っていた。終始心を見せず、あくまで鍛練、けれど本気で斬り掛かってきた。王とはそういうものだろう?」

 一人の感情のまま動くのではなく、民のため、国のために働き、常に気を入れて“王”とならなければならない。

「それが分かった以上、この鍛練の続きは無意味なものだ。騎士が剣を手放すことで俺は姫様に忠誠を誓おう」