「というわけで、場所を移動しましょ」
流れにのり、やって来た見物人の騎士たちも増え、辺りは緊張が走る。
想像以上の出来事に発展してしまい、動揺をしていないといえば、嘘になるが、この場でそれを見せたらその瞬間に負けが確実になってしまう。
あくまで冷静に。心を落ち着かせて。
心に余裕がなければ、その時点でまたあたしが負けてしまう。今度こそ、そうならないために。
審判役の騎士が大きく始めッ、と叫んだ声に合わせ、あたしは一気に動いた。
懐を狙うように近付き、攻めるも、あと一歩のところで受けられる。
でも、その動きからして、先の読めた攻撃ではなかったようだ。まだいける。
と、今度は弧を描く様に真正面に剣が降ってきそうになり、身を翻す。どちらも、攻撃を譲らぬ状態だった。
そこに会話はなく、ただ剣と剣がぶつかり合う音や呼吸音だけが異様に響く。
先に動いた方が攻撃を仕掛けられる。けれどその動きを読まれれば、かわされてしまう。心のうちを読まれぬように、必死でただただ動いた。
剣を持つ手にも一層力が入る。この手の動きに全てがかかっているそう思いながら、無心に動いた。
そう、相手の動きを計算して、打つなんてことできなかった。
互いに手の内は見せず、本能のままに動いているといっても過言ではなかった。


