「わたくしが皇太子に指名されてから数カ月。これまでほとんど表舞台に出てこなかったわたくしが選ばれて不満もある方もいるかと思います」

 あたし自身が、一番不満に思っていたのだから。なんてことを心の中で呟く。
 そして一呼吸おいてから、また話す。

「ですが選ばれたからには、精一杯勤めを果たしていきます。まだ力の及ばぬところは多々あるかと思います。ですので、皆さまのお力をお借りするかとも思いますが、よろしくお願いします」

 そこまで言うと、今度は後ろに立っていたイリヤを隣に呼び寄せる。
 こうして二人が公の場に並ぶことを嬉しく思いながら続きを語る。

「そして不十分なわたくしをサポートしてくれます、秘玉の主……イリヤのこともよろしくお願いします」

 あくまでも丁寧に。上からの目線ではなく、下手に。それでいて、きちんと自分の想いを宣言する。
 そしてイリヤの事も。秘玉の主はつまり、後嗣となったあたしの伴侶、婚約者であることのアピールもこの場でしっかりと、抜け目なく。


 一礼をして、後ろに下がると、拍手が起こった。

 最初は小さかった。だけどそれを受けて、一気に大きなものへと変わる。この拍手こそがこの場にいるみんなからの応え。

 全員が全員とまではいえなかったが、それでも半数以上の人が嬉々と喜び拍手をしてくれたことが、何よりも嬉しかった。



「あぁ……これで今日のあたしの仕事は終わった」
「何、言っちゃってるんだよ」

 席に戻ったあたしの呟きに、呆れたように返すイリヤ。でも本当にそうなんだから。一番厄介なことが終わったんだから、後はどうにでもなる、そう思って。

「とりあえず、もう残りはゆっくりしていられるよ」

 背伸びでもしたいところをおさえて、肩の荷がおりたことを実感した瞬間だった。