あれほどまでに望まれていた男児。生まれてくるまで、どれほど妹であったらよかったと思ったか。あたしには決してなれない男という存在。嫉妬で狂いそうになった。
 唯一の救いは、その子が秘玉を持っていなかったこと。多分持っていたら、あたしなんかは用済みで消されていたのかもしれない。

「逆に、弟は男児だけど、秘玉を持っていないから皇太子にはなれない。そのことで余計に古参のじじい共は腸が煮えくりかえっていると思うけど」
「まぁた、ややこしい関係だね、そりゃあ」
「そんなこんなで現在、秘玉を持って生まれたあたしを正当な後継者と見なしている一派と、そうは認めない……むしろそれなら弟の方がいいと思っている一派に分かれている」

 ちょうど窓の外には、大きな宮殿が見える。それがこの皇宮の本殿ともいえる場所。ここ西の宮は皇王の子どもたちの暮らすただの離れにすぎない。
 だが、この場所を離れ、あそこへと向かったら、そこは敵の巣窟だとあたしは思っている。それぐらいの心構えがないと危ない。


「だからそんな邪魔者のあたしなんかの秘玉に導かれて来たなんて知られたら危ないから一応、ここに住まわせてあげてもいいけど、周りは敵だと思って接した方がいいわ」

 そう、あくまで人助け。あたしなんかのせいで危ない目に会わせるわけには嫌だから。