あたしが頷いた事で納得したのか、イリヤは一応離れてはくれた。それでもあたしの後ろに佇み、まるで監視されているかのようで居心地が悪い。
 だけど周りにはそんな風には思われてないらしく、特に何もいわれなかった。

「セリナ、もうすぐだから」

 近くに居る父親にそう言われても、あたしはの頭の中はあとで話すと言う内容の事ばかり考えていた。



 騒がしかった会場がほんの少し静かになっても、それほど気にならないほど自分の世界に入っていた。
 そんな中でようやく自分の置かれた立場に気付いたのは、周囲の視線があたしの方に集中していると分かった時。

「え、あ……」

 何かを催促するかのように一点に集中する視線。
 沈黙がとても痛々しく、続き、次第に体が震え始めた。


 みんな、待っている。あたしが言葉を発するのを。その言葉によってこれからの命運が左右されるのだと思うと余計に怖くなった。
 言葉にならない叫びだけが、口から零れる。

 と、その時だった。

「ほら、挨拶をするだけだろう、何を怖がっているんだよ」

 いつの間にか背後に立っていたイリヤが、周りに気付かれないようにそっと耳元で囁く。
 大丈夫だからと背中を押され、一歩前に出る。