【長】黎明に輝く女王

 辺りは少しずつ夜の賑やかさを見え始める。普段よりも多く輝く灯りの数々もそれを物語っているようだ。
 慌ただしく人とすれ違う中、あたしは空気のようにそこを通り過ぎる。

 主催者は誰よりも早く現れ、誰よりも遅く入場する。
 それなのに空気のように通り過ぎるあたしに、果たして誰が気付くのかと、ほんの少しだけ笑みがこぼれた。

 見る限り、ここにきている人たちは一人ではおらず、ほとんどが2~3人組でいる。
 そんな彼らにとって、一人きりのあたしには大して興味もないのか、はたまた本当に見えていないのか。

(それもこれも、イリヤが一人で行くからでしょ! 別にいいんだから、一人がおかしいなんてことないでしょ)


 一人きりのあたしは自分のそう言い聞かせる。

 会場に集まる人々を接待しているようで、何もしていない。軽く挨拶を交わすだけだから時に気をとめるものをいなかった。


 大方の人が会場の中に集まったと確信すると、ちらりと中の様子を覗く。

 大勢の人ごみに居ても、すぐに目に留まったのは彼のところ。

「いやいや、そんなことないですよ」

 注目の的と言っても過言ではない。飲み物を片手に、沢山の貴婦人に囲まれたイリヤの姿は、そっくりの別人のようだった。
 にこやかな笑顔で会話を楽しんでいる。あたしの方には見向きもしない、というか気付いてすらない。
 始めからそこにいるのが当たり前のような感じで、場に溶け込んでいる。



「……なによ、自分だけ」

 一人でさっさと行ったのかと思えば、自分は優雅にお姉さま方に囲まれて優越気分にひたっているのか。
 その事に対して、今の気持ちをあたしはなんと表現していいのだろう……。