そ、それだけでしょ。それだけのために、もしかしてそれだけのために新しくかえないといけないの、服って。
 あたしには、よく分からない。何度話を聞いても、分からない。


「それなら、今回は成長したバストを強調するドレスを仕立てることにしましょう」
「え、いや、別にそこまで頼んでは……」
「いえいえ、皇太子として、やはりその場では一番美しく仕上がらないといけませんわ」


 仕立て屋の女性は嬉々としてそれは譲らず、その後もその調子のまま、身体のありとあらゆるサイズを測り、記録を取った。


「あの、夜会では料理も食べるのだから、昼食を食べた後に測ってもよかったんじゃ」
「何をおっしゃいます、一番美しいプロポーションをしている時に測らないと。そのためならば、食事も我慢していただくのは当たり前です」

 そう言いきる人の、職人魂といようか、美に関する追求はすさまじいものだった。
 美しくなるために食べない、それは間違っていると思うと言いたかったが、この場の雰囲気ではとても言えず、あたしは口をつむんだ。


 そして、ようやく解放される時が来た。

「では、色や形などはこちらにおまかせで構いませんわね?」
「は、はい……特に派手でさえなければ」
「分かりました、仕上がり次第、また参上させていただきます」

 採寸だけにこんなに疲れるなんて。もう後のことなんて、どうでもよかった。
 どんなドレスでもいいから、早く解放してくれ、それが切なる願いだった。

 その後、どんなドレスになるかは、到着するその時まで分からず、また慌ただしい日々の中、“ドレス”そのものも忘れ去っていた。