「え、またドレス?」

 離宮の中の、自分の部屋で、メイドたちと身支度をしている時にそれを聞いた。
 鏡台の前に座り、髪を整え、結ってくれているメイドに、あたしは鏡越しで話した。

「はい、夜会用のドレスを新調するようにと」
「って新調しすぎでしょ! イベントごとにドレスなんて用意していたら、衣装ダンスが破裂するわ」
「とは言っても、皇太子として出席する夜会ですし、使いまわしなんてとてもとても……それにこれは、陛下方からのご希望です」

 それにしても、どれだけ見栄をはりたいのよ!
 ドレス一着つくるのに、どれだけの人員と労力、お金がかかるのかと。そう呟いたら、そのドレスのおかげで生業をたてている者もいるのだからとかわされた。

「でも、式典の時だっていくつか新しく作ったのに……あれも一回しか着ていないのだから、いいんじゃないの?」

 そう。式典があるからとわざわざ作ったのは記憶に新しい。

「何をおっしゃいますか。姫様はどうしたらそんな庶民じみた考えに、前の時と同じものを着るというのが恥ずかしくないのですか?」
「イヤ、別に……」
「なりません、そんなことをすれば周囲からおかしな目で見られてしまいます」

 結局それは、あたし自身というよりも、あたしに仕えるメイドとして恥ずかしいと言っているようなもので。
 彼女たち自身がこの世界で生きていく上で、その周囲を気にするのは仕方のない事だと思う。

 いいように言いくるめられ、新しいイブニングドレスを一着作る事になったのだった。
 ちなみに、一着だけというのはあたし自身の強い意見が通ったということ。

 仕立て屋にお願いをして、また寸法や具体的なことを決めるための時間をつくらないといけなかった。