【長】黎明に輝く女王

 今だから笑い話として話せるけど、これでも当時は深刻な悩みだったと語る父。
 けれど、あたしはそんな話は初めて聞くので、それどころじゃなかった。
 あたしの知る父は、物心がついた時にはもう皇王だった。父というよりも、皇王をそばで見てきて育ったあたしからすればその存在は憧れを通り越して、雲の上の人のような感じだった。

 “皇王”は人でありながら、人ならざる者。そんな風に感じ取っていた。
 普段の執務にしても、会話するにしても、父をそんな人間じみた者には思えなかったのだ。


「嘘みたい、信じられない。だって、父さんの姿からそんな風に思えないんだけど」

「それは、父親として嬉しいのか悲しいのか……。俺は今も昔も強い人間じゃないんだ。強い人間だと思わせるような人間なんだ。まあ強いて言うなら、強くなれるのは、セリナやリュカ、母さんがいるからだ。家族の前で格好よく見せようという気持ちがあるからな。それに母さんがいるからこそ、逆に弱音も吐けるものだ」

 堂々とそう言える人の、どこが強く見せてるだけの人間なのか、あたしには分からない。

 けれどなんとなく分かる。大切な人がいるからこそ、自分をよく見せたいと思う。だけど辛い時は、隠すことなく安心して頼ることができる。まあ、隠す前にお見通しなんだろう。


「あたしも、なれるかな」

 ほんのわずかな期待を胸に。将来、みんなに信頼され、また信頼しあえるような強い女王に。
 その問いに、父は満面の笑みで答えた。

「あぁ、なれるとも。俺の自慢の娘なんだから。夜会の一つや二つ、女王の仮面でもつけて堂々とすることくらい、セリナならできる」
「ははは、何よ、それ」

 腹の底から思いっきり笑いこける。
 あんなに不安だったのに、今やこんなにも大丈夫という強い気持ちに満ち溢れている。

 ……これも“皇王”の力なんかしら。
 ならあたしも、みんなが不安なく安心できるような女王になりたいな――。