いつの間にか、お茶を入れてくれた人は姿を消していて、小さな部屋の中はあたしたち二人だった。
正面に立っていたイリヤも、気がつけばあたしの隣に座っている。
「僕はもともと科学者の端くれだから、何かをとことん追求するのが好きなんだ。そのきっかけになったのが……セリナ、キミの事件だった」
「あたしの?」
「あの事件、キミが戻って来て万事解決ってことになっているけど、まだ分からない謎も残っている。リンド公も喋ってなかったことが」
あたしの事件、恐らくはこないだあった誘拐拉致監禁事件のことだろう。
当事者であるあたし自身、その事件について深く知らない部分もあるのは事実だった。
「キミをどのようにして連れ去ったのか」
「それは、多分、手下か誰かがやったんじゃないの?」
そう言うと、イリヤは呆れた顔をして、そういう意味じゃなくて、と何やら考え込んでいる。
「どうして、キミはあの時意識を失ったのかってこと」
「えっと……あの時は確か、執務室で仕事をしていて、ちょっと休憩しようとお茶を飲んだら眠くなって」
「そう、そこ。お茶を飲んだら眠くなった。つまり、催眠効果のあるお茶を使っていた、あるいはお茶に何かを入れた。執務中ということを考えれば、前者は考えにくい。必然的に後者になる。ただ……」
真剣な面持ちで語るイリヤの顔に陰りが見えた。
ただ、何なのか気になるあたしは静かにその話に耳を傾ける。
「あの時は調べてもそれが何なのか具体的には分からなかった。それに、シロラーナではそもそもこの分野は発展途上で、未発見の物質も多いと」
「そうなんだ、その、あたしはそっちの方面に関してはよく分からないけれど、一部の富をもつ者のみが有する秘薬があるっていうのは聞いたことがある」
簡単に言えば、一部が独占しているといってもいい。その方面に詳しい者を雇い、秘かに調べている輩もいると聞く。
だからこそ、国で統一しなければならない、という現状があることは知っている。


