「さて、今日はもう帰るよ」
「そうよね、愛しの君にも逢いたいでしょうから。それにしても、あのセリナがこんなにも素直に帰ってくれるとはね」
「……嫌味ですか、それは!」
そんなことを言い合いながら、ナーディアの部屋を後にした。彼女も神寵姫。暇ではない身、様子を見てそっと去る。
帰り路。いつも見る神殿の風景もどこか温かく輝いて見える。
新緑に映える庭、ふと足を止める。そして、周囲を見渡す。
自然の中に宿る女神様の意志、想いを感じる。どんな時も、そばにいると。
「女神様、今、とても幸せです。そしてこの国を愛しています」
心の中で、女神様に語りかけるようにそう呟く。
どんな時も、あたしの支えだった女神様。これからは、あたし自身がこの国の支えになりたい。そう強く思える。
「ありがとうございます、また来ます」
誰もいない神殿の中の庭の隅。誰に言うわけでもなく、そう語ると、止めていた足を再び進めた。


