ここで取りみだしたらダメ。冷静な心で対応するのよ、セリナ。
 表情はなるべく変えずに、男に問いただす。

「それで、あなたの名前は……?」

 だ、ダメだ。声が震えてしまう。しかし、相手は気にしていないのか、そっけなく応える。

「イリヤ」
「へえずいぶんと可愛らしい名前だこと」

 イリヤ。想った事をつい口走ってしまったが、向こう――もといその“イリヤ”は特に気にしていないようだった。

「ま、まあ一応言っておくけど、今のシロラーナに来たっていいことなんて何もないんだから」
「それなんだけど、まだ詳しい状況知らないから取りあえず教えて。まあ僕だって元いたところに帰ったってどうにもならないんだ。ここで生きていくしか」

 酷く重い話のように感じる。どこか遠くを見つめ、生きる輝きを失ったといえばいいのか、彼自身がそんな風に思えた。それは、どこか今のあたしにも似ている。
 だけど、イリヤの姿を見ていると別にどうってことないように感じてしまう。あまりにも他人事のように話していたから。

「そっちも訳ありみたいってことね。いいわよ、今のこの状況を分かりやすく説明してあげるわ。その代わりあんたの方も何があったのか、身の上話をしなさい。それが条件よ」
「……別にいいけど本当に高飛車というか、上から目線な言い方だね」
「んな、文句があるっていうの!?」

 それにあたしは仮にも、いや実際皇女なわけなんだから。こんなんでもね!
 でもここでいちいち反応していたら、本当にキリがない。こいつと接することで、ある意味精神を鍛えることができるかも。

 そう、これはあたし自身への試練よ。そう思う事にしよう。
 そうじゃないと、話をしていけないわ!