【長】黎明に輝く女王

 午後一での公務。この街を預かる長との会談になる。本題の話以上に、いろんな話をする話術が必要になるはず。
 でも社交界にも表立って参加していない上に、そもそも人と会話を得意としないあたしには、一番気合いがいる。

 それでも、これまでの悲観的な自分を変えて、前に進むには絶好の機会だと言い聞かせる。

(大丈夫、落ちつくのよ)


 案外、こういう場面が苦手だと言う事を改めて知った。でも、もう逃げない。自分に素直に、できる限りの事をするって決めたから。


 エッカルト公が扉をノックして、いよいよ中に入る。このホテルの中でもより力をいれた厳かな造りに飲み込まれそうになる。
 そんな時、ふと温もりを感じた。

「大丈夫……上手くいくおまじない」

 そう耳元で呟いて手を握るイリヤの姿にあたしは一瞬、驚きを隠せなかった。だって、そんなものは非科学的なものだといって、何一つ信用していなかったのに。
 でも、手のひらから伝わる温もり、それを包み込むような笑顔に、あれほど緊張していたあたしの心は次第に落ち着きを取り戻していた。

「ありがとう、勇気が湧いてきた」

 なんて言うか、こう、大きな背中に護られているといったような安心感がある。
 イリヤが傍に居てくれるから、頑張れる。一人じゃないと思える。


 気持ちを切り替えて、後嗣としての役目をしっかり果たす“セリナ”になれる。