【長】黎明に輝く女王

 食事の時間。楽しく過ごしたいというものはあたしの我儘なのだろうか。

 あっさりの野菜スープに、新鮮な魚介類のサラダとグラタン。やはり貿易の拠点となっている街。珍しい野菜や取れたての魚介類も多い。

 普段滅多に食べないようなものも出て、テンションもあがりそうなのに、そうもいっていられない。


「セリナ様、初めての事で珍しく興味も惹く事も多々あるかと思いますが、視察ということも忘れないでください」
「……分かっているわよ」

 小言を言われながら、少しずつスープを飲む。美味しいはずなのだが、味気ない。

「とかいいながら、仕事よりも旅行なんじゃないの」

 横から呟いてくるイリヤの一言には、応えることができなかった。それはあたっている。
 食べていたスープが喉につまりそうになるのを必死にこらえる。

「ちゃんとすることはするつもり」

 あくまでここにきたあたしの目的は視察公務。それを終わらせない限り、心に余裕はないのはあたし自身がよく分かっているつもりだ。
 普段それを面に出すことはなくても、初めての公務に緊張を隠せていないのが本音。

 もちろん、そんな部分まで知ってほしいとまでは思わないし、人にはそういう部分が必要だとも思う。


「今回は会談で現状確認と実際の現場を見る、それが主な公務。大変なものでも難しいものではないけれど、後嗣となった“セリナ”が初めて出た表舞台。それだけでも意味が大きい……そうなんでしょ?」
「分かっているようならそれでいいです」


 この食事だって、それを考えた上でのメニューだろう。貿易で栄えている港町。しかしそれ以外にも漁業で有名な街。
 それをアピールするには丁度良いメニューだし、好印象をもつ。


「あたしはとても楽しみなのよ」

 二人に笑みを浮かべ、出された料理の一つ一つを味わって食べきった。