取り残されたあたし。そして明らかにこの場所に異質な存在。
 そのまま時は流れて、なかったことにすればいい……なんて思っているが、運命から見放されているあたしにそんなこと起こりやしない。

「で、あんた誰」

 どうしても視線の中に入るその真っ黒男に初めて声をかける。
 が、かなり低い声で。女でもこんな声がでるのか、といったような。そして、相手の出方を窺うのだ。

「は? あんたこそ誰」

 はじめて聞いた声は、男のくせに高かった。
 おそらく、さっきあたしが言った声なんかよりも断然。しかも、こっちは不機嫌丸出しなのに、なぜか向こうは余裕綽綽に見える。
 それが余計に腹立たしい。
 今すぐ、殴ってやりたいが、その衝動を一生懸命抑える。
 だって、ここで殴ってしまえば相手の思うツボだ。ここは、深呼吸をして、心を落ち着かせる。

「……私はセリナ・シェルヴェンと申します」
「その善人ぶった顔やめれば」
「んなっ!!」

 人がせっかく気を使って言っているのに!
 まあ、よそ行きの顔でだけど。