【長】黎明に輝く女王

 移動にかかる三日間、旅行と意気込むも、実際仕事が終わっていない以上、そちらを優先的にしないといけないことに変わりはない。

 馬車の中は揺れるので、特に何かをするということはせず、イリヤとの会話が中心。
 食事や休憩で途中下車するも、楽しむ暇もなく、再び馬車は動き出す。
 一泊の宿に泊まる僅かな自由な時間しかなく、それも書類を見ての確認などに追われる。

 はっきり言って、楽しさなんてものは感じられず、移動だけで疲れてしまいそうが本音だった。


 それでも、旅立って四日目。独特の風香る街に来たというのが分かると、これまでの苦労は少し報われたような気がした。
 天気良く、また心地よい気温の温かさ、そして普段見慣れない港の風景に、自然と心躍った。


「うわぁ、こんな街並み、初めて見た」
「何というか、明るくてきれいな街だね」

 住宅街と市場が混じったような建物。もちろん、海も見え、防波堤の向こうには大きな船も見る事が出来た。
 と言っても、厳密には海ではなく、運河。大陸の中に流れる大きな河なのだが、あたしの眼には果てのない海にも見える。
 運河でこれくらいならば、海はどれくらい大きいのだろう。好奇心も湧いてくる。

「セリナ様、まずはホテルの方へ。そこで昼食を召し上がられた後に、会談があります」

 興奮気味のあたしにこっそりと耳打ちするエッカルト公。その言葉の最後には、目立ってしまっていますよという一言を付け加えて。

 ……今まで、自分しか気にしてなかったけれど、ものすごい注目を浴びている。

 確かに、たいそうな馬車が何台も続き、出て来た人物が明らかに上流階級の服装を着こなしていれば、何事かと思うだろう。
 あたしたちをじっと見ている住民や観光客もいれば、すぐに商売に戻る商人もいる。

 ずっとここにいては、ますます注目されてしまうことは目に見えて分かった。