【長】黎明に輝く女王

「しかも今回は後嗣であるセリナ様の初めての外出。何事も最初は肝心ですゆえ」

 だからより凝った細工を施した馬車になったと。そういう目的なのは分かったけれど、やっぱり目立つのは恥ずかしい。


「つまりセリナが外に出る初の機会だからこそ、民衆たちにいろいろアピールしたいというわけ?」
「ええその通りです、イリヤ様」

 イリヤの発言に笑顔で応えるエッカルト公。この二人がタッグを組むと、とんでもないことになりそうな気がする。


「では、セリナ様、移動中は3日間の長旅になります。ごゆるりとお過ごしください」

 そう言って、馬車の中へとエスコートをしてくれる。段差に気をつけて中に入れば、中もそれはそれは凝ったものだった。
 簡易の部屋を思わせる造り。テーブルとソファしかないが、それも長旅を考えて、居心地がいいように造られている
よう。
 テーブルにはクッキーなどのお菓子もおかれている。


「うわぁ、ここまで立派にしなくてもいいのに。この前乗った馬車は一体なんだったんだろう」

 一人で感心していると、イリヤも中に入ってきて、扉が閉められた。

「これが国の威厳なんだ。セリナ、キミはそれを背負って今回旅立つんだよ」
「……そう言われると、とても緊張するんだけど」
「ふふ、なぁに。いつも通りにしていれば大丈夫だと思うけど?」

 珍しいと思ってはいけないだろうけれど、滅多にないイリヤの励ましはあたしの心の奥深くまで響いた。

「そう言ってもらえると、頑張れる気がする」

 二人しかいない馬車の中、あたしはそっとイリヤの右腕に抱きついた。