【長】黎明に輝く女王

 視察当日。天候もよいその日にあたしたちは皇宮を旅立った。

 旅行らしい旅行は初めてなのでとても楽しみ、というのが今のあたしの本音である。たとえ、公務の一環だとしても、仕事は仕事でしっかりとやりこなし、余暇の時間は十分に楽しむつもり。

 同行するのは、イリヤはもちろんの事、秘書のエッカルト公に護衛の騎士が3人と世話係のメイドが3人。
 大人数で行動しても、多いだけなので少数の精鋭たちだけで向かう事になった。ちなみにあのリクハルドはいない。まあ選ばれたのは実績も経験も年数を積んだ隊長クラスの者たちだから、当たり前といえばそうである。

 恐らくこの中で最年少になるのはあたしだろう。年の近いイリヤが傍に居てくれるのはある意味、息がつまらなくてよかった。


 メイドたちとエッカルト公、あたしとイリヤに分かれて馬車に乗る。その馬車を挟むように騎士たちが護衛する。

「馬車自体もあんまり乗った事なかったけど、“これ”ってこんなものなの?」

 あたしが指差す馬車は豪華ではないにしろ、威厳の感じさせる赴き深いものだった。装飾の一つ一つにまできめ細やかな細工がされている。
 そして、皇族の家紋を示すほどよい大きさの旗が2つ。以前、皇宮に戻るときに乗った馬車にはそんなものはなかった。

 すると、隣で呆れたようにエッカルト公は言う。


「皇族の方が公務でお出になる際は、その威厳を示すためにもこういう馬車になるのです。これまでにも陛下たちの例がありましたが、知らなかったのでしょうか」
「う……公務で外に出られるのは知っていたけど、お見送りなんてしたことなかったし……」

 そう、これまでのあたしだったら、あんまり両親とのかかわりをもつことも怖れて、滅多に会わなかった。
 だから普通なら、教えられなくても知っているべきことを、あたしは知らないままでいた、この年まで。

 今考えると、恥ずかしい以外の何物でもない。