「それとも、一人じゃ寂しいとか?」
「え」

 俯いていたあたしを覗き込むようにに見てきたイリヤは大胆な笑みを浮かべている。
 ち、近い……近いから、顔が! そう戸惑って何も言えずにいるとさらに喋る。

「セリナがどうしても一緒に来てほしそうにしているから、付いて行ってもいいけど?」

 そうは言っているけど、その顔、絶対そんなこと思っていない!
 それに、何よその言い方。まるであたし一人じゃどうすることもできないみたいじゃない。

「そこまで言うなら、別にいいよ。観光の方は一人で楽しむし」
「そんなこと言って。本心じゃないくせに」


 イリヤはなんでもお見通しだった。そんな彼にどうこう言ってもキリがない。むしろ素直に流しておけばよかったのかもしれない。
 一人であたふたする自分が馬鹿みたい。
 そして軽々しくも誘ったあたしは、なんて能天気な女、という風に思われているのかもしれない。


「まあセリナもその気だし、楽しもうね、旅行?」

 そっと肩を抱かれ、楽しそうに耳元で呟くイリヤ。その言葉に、胸の奥が熱くなって、僅かに体が震える。
 あたしは所詮、彼の手のひらの上で踊る人形か。


 この判断は果たして正しかったのだろうか。
 ここにきてようやく、あたしはようやく普段の落ち着き取り戻した。