とても充実した日々。忙しい事に変わりはないのだが、心の中はとても安定している。

 あたしとイリヤは今は互いにやるべきことをしつつ、一緒に居る時間もとりつつ、暮らしている。寂しいと思う時もあるけれど、喧嘩しているわけではないから、会おうと思えばいつでも会える。

 それにイリヤは例の薬草の研究に本格的に乗り出したらしく、生き生きとした彼を遠くで見つめるのも嫌いじゃない。
 その方面に関してはあたしはよくわからないので、何をしているのか気になりはするけれど、邪魔はしたくないと思う。
 それに研究中にたまに会ったりすると、あたしのよく分からない事を熱弁するものだから、やっぱり研究中は合わない方がいいかなとも考える。



 あたしはというと、執務するうえでの秘書ができた。あの事件が起こった原因に、一人だったからということもあり、また公務に関しては素人ということもあり、この度正式に決まった。

 あたしの秘書はエッカルト公といい、もともと執務官の一人。30代前半だが、とても優秀な人物らしくあたしのサポートも年若い彼がいいと決まったらしい。
 それでもあたしからすれば、30過ぎなんて“おじさん”だけど、まだまだ若く溌剌とした人だった。


「そして以前から上がっていた視察の件ですが」
「あぁ、港町への視察ね」

 あの事件がなければすぐに行われるはずであった関税、密輸入などの調査のための視察。
 そういえば、そんなこともあったなぁなんて思っているだけじゃ、まだまだ後嗣としての自覚が足りないのかもしれない。