「あとは、貴方方が知っている通りです」


 すべてを聞き終わった後、あたしは少し考え思い出した。

「あの夜。あたしが外に出て伺っていた時に見た紋章……リンド家の家紋だったんだ」

 ある意味、あたしにとっても始まりはあそこからだった。
 あの時、自分が見たものはその話し合いをしているところだったんだ。そしてそのあと、イリヤと口をきかなくなりぎくしゃくしたまま、皇宮の外に連れ出された。

 でもあの話をした翌日の出来事である。よほど急をようしていたのか。
 それともあれは最終確認だったのか、それは分からない。


「足が付かないよう金を集めて、物珍しい薬草も入手しました」

 その薬草を使って、あたしの意識を失わさせ、連れ去ったのだろう。そう考えるあたしの隣では、イリヤが目を光らせて聞いた。

「その薬草、なんて名前なの? この国にはないものだということは分かったけど」
「さて、遠い異国から手に入れたので。ただ、ある程度眠らせる効果があり、物に溶かすと解けて見えなくなるという便利なものらしいです」
「解けて見えなくなる……」

 そう言ったきり、イリヤは血が沸いたような表情をみせ、何もしゃべらなくなった。
 彼が、そういったことが好きなのは知っているし、そのままにしておこうと思い、あたしだけ話に戻る。

「聞きたい事があるんだけれど、なんで古びた廃屋に最初は閉じ込めていたの。伯爵に会わせたいなら、屋敷に連れていけばいいじゃない」
「ははは、そう簡単にはいかなくて。もうあの屋敷は息子のものなので、連れて行くというのも難しかったんです。だから折を見て、荷物か何かに紛れ込ませて屋敷の中に入れようとしたのですが、もうその時には貴方はいませんでした」
「逃げてたしね。それにそんなことをしたってあの伯爵なら罪悪感しか感じないと思うけど」

 自分はこのことを知らなかったとでも言っていたような伯爵。父の罪をなすりつけられても困るだろう。
 本当に。こんな風にして出会わなければ、恋してしまうこともあったかもしれない。
 ……でもイリヤと既に出会ってしまったから、それはないか。