【長】黎明に輝く女王

 そのつもりでいろいろと準備をしていたリンド公。時期を伺い、その話を皇王に持ち上げようと考えていた矢先、彼にとっては想定外の出来事が起こる。

 皇女の秘玉をもったという青年の出現。イリヤが現れた事、それは大きな誤算だった。

『な、なんで秘玉の主が……!? なんで、どうして』

 そこで、彼は一番頭に入れておかなければならないことを忘れていた事に気付く。――秘玉の主の事を。


 これまで皇女ばかりが取り上げられていてすっかり忘れていた。
 本来ならば、後嗣となる子が秘玉をもって生まれ、年頃になるとその秘玉に導かれ伴侶となるものが現れる。
 今までは後嗣は男、秘玉の主は女だったからそれ以外のことは頭になかった。が、後嗣が女なら、秘玉の主は男になる……ということも想像できたはず。

 だけどあまりに自分の野望ばかりが先に進んでいて、肝心の事を忘れていたのである。


 それだけではなく秘玉の主の出現は、リンド公に忘れていたものを思い起こさせた。
 本来もつべき忠誠心というものを。

 シロラーナの皇王はその国が成り立った時から女神が、秘玉が選んだ伴侶を立てている。
 それによって永久の平和と豊かな暮らしが保障された。だからこそ、先祖代々皇王そして女神が選んだ伴侶を支えてきた。
 それが国の繁栄に繋がると信じて。


 醜い争いにより、失われてしまった想い。だけど、それを思い出させた秘玉の主――イリヤのことをリンド公は嫌いにはなれなかった。
 それはやはり、女神が選んだ方……国に繁栄をもたらす方と知っていたから。