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それは一人の貴族の膨れ上がった欲望から始まった。
リンド公はシロラーナに代々続く家柄の貴族の一人だった。爵位を頂くまでは故郷であるミゼット州で過ごし、自由気ままにいきていたという。
その後青年期のころに爵位を継いでからは、都で暮らし、政治にも介入し始めていた。
都での暮らしに慣れ、その地位も上げて来た壮年期の頃に結婚した。ただ、家族は故郷に住まい、休みに戻るといったような単身赴任ともいえる生活をしていたらしい。
先祖代々変わらぬ忠誠心をもってつかえていた皇王一家。
当代、そして先代の代から皇王を支持してきた彼はある時、その信奉を試されることが起こった。
それが、皇女――セリナの誕生だった。
前代未聞の秘玉をもった姫を支持するか、排斥するか。
仲間の貴族たち、古参の者たちはこぞって反対派にまわった。後嗣は男児のみ。これまでそうだったし、これからもそうあるべきだと。
皇王、皇妃とは身分の違いはあれ、親しくさせて頂いた仲。その娘である姫の事も他人事のようには思えなかった。
他の貴族はどうかは知らないが、リンドという家系は国に仕えるのではなく、皇族に仕えている。
だからこれまでの慣習よりも、秘玉をもって生まれたという姫を支持することにした。
周りがどうであれ関係ない。他ならぬ皇王夫婦がそれを望んでいたから。
それに、自分が賛成派になったことで陥れられるほど、弱い地位でもない。自信をもって堂々と国の政治の中に身をゆだねていた。
そして、気がつけば賛成派の第一人者となっていた。