あたしが皇宮に戻ってから気付いたこと。それはあの息の詰まる場所だった本宮の空気が少し変わったかなというもの。
 なぜかは分からないけれど、すれ違う文官やメイドたちが“普通”に接してくれるのである。
 その変化に少し戸惑いながら、人の流れを通り抜け、皇宮の中でも西の外れに位置する拘禁所へ向かった。

 貴族や官僚で罪を犯した者、犯したと思われる者はまずこちらに送られ、沙汰を待つ。

 同じ皇宮内にあるとはいえ、距離的にはものすごく遠く離れており、徒歩だと30分かかる場所にあり、近付くのはある意味初めてだ。
 それでもあたしは、犯罪者が同じ皇宮内にいるだけでも危なくて怖いと思うのだが、警備がしっかりしている上に逃げ出すことは不可能に近い造りをしているため、ここにあるのだという。
 まあ皇宮内は様々な施設が複合しているし、その身分によって入れない場所もある。執務や居住区のある本宮や離宮はその最たるものだ。


 そんな拘禁所までの道のりは分かるにしても、やはり怖いので、イリヤについてきてもらう事にした。
 なんだかんだ言いながらも、ついてきてくれるイリヤは優しいと思う。


 着いた場所。そこは、まるで過去の遺物のようにこの場には相応しくないような石で造られた牢屋だった。
 皇宮は永遠の常春を思わせる場所なのに、同じ場にありながらここは春の来ない冷たい冬を思わせる。

 そこにいた番人に話をし、中に進む。
 ここまで止められることもなく、案外楽に来られたが、その理由は後に知ることになる。リンド公から話される真実によって。