かと言って、その気持ちにずっと浸ることも今のあたしにはできない。

 短いながらも十分な休養を取った現在、あたしも皇族の一人として、事件の被害者として、この出来事の行く末をまとめる必要がある。

 あたしは執務室で、イリヤの知っている情報を聞いていた。

「――ミゼット州からの連絡があったのは想定外だったけれど、リンド公爵の行動を決定づける証言も得られた」
「それじゃあ、最初からリンド公が怪しいというのは分かっていたんだ」
「身辺調査の結果でね。まあキミが消えた状況からして内部犯の可能性が高いことは最初から分かっていたけど」

 その事を記した書類に目を通す。あたしが休養を取っていた間、イリヤは休まずにこれを作っていたという。
 あたしは、そんなイリヤの行動が今は純粋に嬉しかった。けれど、やっぱり恥ずかしくて簡単に礼を言っただけ。

 それでも、そんなあたしを見越しているような笑顔で応える彼。
 あたしは執務中、冷静になるのに、必死だって言うのに。

 集中をそちらにもっていくために躍起になって読む書類。

「あ。あの時リンド伯が言っていた“お詫び”って、もしかしてその事?」
「そうだよ、報告してきたのが伯爵本人だったし、話も聞いてあの人が関与していることでないことは分かった。恐らく公爵単独で計画したことだったんだろう」
「うーん……けれど、動機が分からないわ」

 リンド公といえば、数少ない賛成派の一人、だと思っていた。
 それが見かけだけのものなのか、それとも賛成派でありながら起こした行動なのか、分からない。


 書類に書いているのは、起こった事実のみ。事件の経緯とでもいようか、今のところ原因や詳しい犯行手順などは分からない。

 つまるところ、行き詰っているのである。
 椅子に座ったまま大きく背伸びをする。窓から見える皇宮の風景はあの頃と何一つ変わっていない。

 変化のない周囲。やきもきするのは仕方のないことよね。


「そこらへんはリンド公爵から直接聞いたらいい。ミゼット州の州境の森で発見され、今護送中らしいから」
「え、見つかったの!? それに、州境の森……もしかしてあたしが最初に監禁されていた屋敷があった森?」
「……恐らくはね。廃屋も見つかっているし。キミにとっては嫌な記憶かもしれないけれど」

 そう言ったイリヤからは、彼なりの気遣いが伺えた。

「それでも、今は真実が知りたいから」

 迷うことなくそう伝えたあたしに、イリヤは少し驚いた顔をしたけれど、すぐにいつもの表情に戻り、キミらしいと一言言った。