【長】黎明に輝く女王

 そして話をそらすかの如く、伯爵も別の話題をもちだす。

「ミゼット州はどうでしたか? すぐに戻られなくても、観光などされてもいいと思いますよ」
「うーん、確かに。せっかくいるのだから、いろいろ見たいかも」
「なんなら案内しますよ。この州の見どころなど紹介します」

 楽しそうな顔を浮かべて話す伯爵に、あたし自身も楽しくなる。
 もともと皇宮暮らしであまり外にも出た事がない。旅行もしたことがないので、こういう時に楽しむのもいいのかもしれない。

「それなら……」
「遠慮します」

 あたしの声を遮るかのごとく、言葉を放つイリヤ。自然とそちらに顔を向ける。顔を上げると、不気味な笑顔を浮かべたイリヤがいた。
 あぁ、ダメだ。こうなったからには彼には逆らえない。

「もともと誘拐、拉致監禁の流れでこの地についただけであって、楽しく観光する予定は組み込まれていません。……そうでしょう、姫様?」
「ハ、ハイ」

 にやりと微笑みながらこちらを見るイリヤにあたしは他に何も言えなかった。

「すみませんね伯爵。ミゼット州は別の機会にでも」
「ははは、そうですね。じゃあまた会えることを楽しみにしていますよ」

 そんなイリヤに怯えることもなく、爽やかに微笑むリンド伯。彼もある意味すごいと思わざるをえない。