「い、いたい」

 ぐりぐりと引っ張る姿は楽しそうに笑っている。痛がるあたしを見て喜んでいる!?
 しばらくそうして引っ張ったのち、彼は手を離した。

「ここ<シロラーナ>に来て、キミと傍にいるのが当たり前になっていて。そのことにどこか安心を覚えたんだ。今回の事件で身をもって思い知らされた。離れてしまってその気持ちに気付くなんて。気付いてからは自分でもばからしかったよ。これまでの自分が腹だしくなったり、周りの男たちに嫉妬してしまったりと」

「だからキミがスキなんだよ、セリナ」


 その言葉は本物? 彼の気持ちは本心? 疑う気持ちよりもやはり、心の中では嬉しい悲鳴を上げていた。
 あたしも、素直になっていいのかな。

「あ、あたしも……気付いたのはちょっと前だった。離宮で離れて暮らしていて、当たり前の幸せに気付かされて。だからあの夜、自分が恥ずかしくてイリヤには怒る様に当たってしまったの。まさかあの時は、こんなことになるなんて思ってなかったけど。やっぱり離れると、寂しいね」
「……あぁ、そうだね」
「あたしたちってなんか似てるよね。お互い意地っ張りで素直に慣れなくて」
「でも、そんなところもいいんだろう」

 そう離しながらお互い笑い合った。あんなにも離れていた二人が、とても近くに思えた。
 しかし、甘い時間はそうもたなかった。


「じゃあこれからは婚約者同士ってことでヨロシク、セ・リ・ナ」
「はッ……こ、婚約者!?」
「うん、だってキミは皇位継承の姫だし、僕は“秘玉の主”だし?」

 た、確かにそれはそうだけど……いきなり婚約者って、は、恥ずかしくていま、多分、顔が真っ赤になっているはず、絶対!!
 意地悪そうに微笑んでいるイリヤを見ると、明らかにあたし、からかわれている!

 なんでそんな風に言うのよと叫びながら、彼の胸元を叩く。


 そんなことはしているけれど、やっぱり心の中は幸せがいっぱいに詰まっていた。