言葉も言えず、かたまってしまったあたしをイリヤは強く、強く抱きしめている。
 他人事のように客観的にそう感じてしまう自分はもう末期だろうか。

「自分だけ言ってすむなんてこと思わないでよ。気になるのなら聞いてもいいじゃん」
「で、でもそんなことまで頭がまわらない……」

 一度肩を離し、あたしの姿を見て一つため息をつくイリヤ。いつもならそこで何かしら言うのだが、やはり頭が働いていない。

「じゃあ僕の方からも言わせてもらう」

 一呼吸おいて、彼は落ちついた口調で言った。

「僕は生まれ育った環境が環境だから、スキとかキライとかそんな感情はあまり持ち合わせてなかった。ただ傍に居ていいと思ったり、嫌だと思ったりすることはできる。キミはそんな僕が一緒に居て心地よいと思える人だよ、セリナ」

 まっすぐにこちらを向いて語る彼。

「い、今、名前で呼んだ……?」
「悪い? 好きなコの名前ぐらい言いたいと思うものでしょ」
「……え、えぇ!?」
「だからキミはバカなんだよ、一人で突っ走って、相手の、僕のことなんか考えずに」

 そういうと、イリヤはまっすぐあたしの前まで顔を近づけて……頬っぺたを引っ張った。