【長】黎明に輝く女王

 この邸宅に保護されて、三日ほど経った頃。
 あたし自身もようやく今の状況に落ち着きを取り戻した頃に、この屋敷の主が挨拶に来た。

 彼は伯爵らしい。なのでリンド伯に当たる。
 あの口の悪い男と兄弟というのが不思議なくらい清廉な人だった。
 伯爵の地位についてまだ2年らしいが、温和なため地元の人にも評判もよい。

 リクハルドとは少し年が離れたようで、現在23歳、独身。

 穏やかな表情で、まっすぐな蒼い瞳をこちらに向けられた時は、柄にもなく時めいてしまった。
 少し年上の男性に憧れる普通の女の子みたいに。


「随分と元気になられたみたいでよかったです」
「……わざわざありがとうございます」

 普段のあたしからは想像もできないぐらいに畏まる。
 知らない土地、知らない人、どこか自分とは違った場所のように思えた。

「姫様におかれましては、多大なご迷惑をおかけになり、申し訳ありません。あと数日もすれば、皇宮からの使者も到着するとのことです。それまでは、ごゆるりとお過ごしください」
「はあ、分かりました」

 緊張してか、小さな声で答えた。
 姫だから気遣っているのか、優しい物腰。そんな風に接されたことなんてないものだから、余計に緊張していた。


 そんなあたしが分かったのか、用件は短く、終わるとすぐに退出していった。
 彼も忙しいのだろうと思ったが、長時間でなくて、ひとまず安心した自分がいたのは確かな事だった。


 屋敷の主に気遣われ、メイドや執事たちも丁重に“姫”として扱ってくれる。
 本来ならば、それが姫のあるべき姿なのかもしれない。でもやっぱりあたしには、少し堅苦しく思えて仕方なかった。

 でも、一時でも“姫の夢を”味わえることは、嫌ではなかった。

 そして夢から覚めるための使者たちも、すぐ傍まで来ていた。
 心の中で、夢に浸っていたいと思う一方、ほんの少し、彼らの事を待っていたのも内緒の事実である。