すべてを聞き終わった後、イリヤは考えた。そして言った。

「自分には親はいません。小さい頃はそれが悲しくてしょうがなかった。だからアイツ、セリナのことが分からなかったんです。近くに親がいるのに、どうしてそんなに遠く感じているのか。いるだけでもいいだろう、羨ましく思ってました」

 イリヤの過去。あまりいい思い出でもないので、忘れるかのように何も言わなかったこと。
 でも、セリナの話を聞いて、自分の事も素直に言ってみたいと思えた。

 俯いて喋ってはいるものの、とても冷静に落ちついている。

「それはわたしじゃなくてセリナに言ってあげて? そして今言った事もあくまでわたしの憶測、本当の事が知りたければ直接本人に聞くのが一番よ。自分の抱えているものをお互いに吐き出すことで、より近い存在になれる」

 皇妃も遠い過去を思いだしているかのように、話していた。
 悲しい事、苦しい事たくさんあるけれど、その存在が居てくれるだけで、強くなれる。

 皇妃は母として、妻として、そして妃としても強く優しい、そんな顔をしていた。


「いろいろ話してくれてありがとうございます。これから自分の方から一歩踏み出してみようと思います」
「そう、なら今話した事が生かされると嬉しいわ。また何かあったらいつでも言ってきてね。……貴方も息子のようなものなのだから」

 笑顔を浮かべ、肩に手を乗せる。それを見てイリヤは目を大きく見開いた。
 驚いて口までも、開けてかたまった。

「貴方はもうこの世界、シロラーナで生きていくのなら、わたしは貴方の母よ」

 母とはこんな人なのだろうか。初めて見たその大きな存在にイリヤは、言いようのない幸せな気持ちで零れ溢れた。
 こんなにも温かい世界、幸せな家族。
 これが、嬉しいという気持ちなのだろうか。

「ありがとうございます」

 できる限りの精一杯の笑顔を浮かべ、イリヤは皇妃に礼を言った。