【長】黎明に輝く女王

「セリナは11、リュカは赤ん坊。リュカの育児ばかりしていたせいで、セリナと触れ合う時間が減ってしまってね。仕方ないと言えばそれまでだけど、セリナにはそれが哀しかったのよ」

 もちろん、皇女自身も分かっていた。赤子は親がないと生きていけない。
 けれどこれまで助けてくれていた親に触れ合うことができない、助けを求められない。

 結果、皇女は親と距離をとった。皇子とも離れた。彼らが悪いわけではないことを知っていても、近くにいたら、酷く当たってしまいそうだったから。

 そして、その頃から何か諦めたかのように髪を伸ばし、以前と比べて女の子っぽく過ごすようになった。
 今でも鍛練はしたりしているが、当時の比ではないし、言葉遣いも少し柔らかくなったという。


「だからわたしたちのことを嫌っているわけじゃない。一度距離をおいたためにどんな風に接していいのか分からない、昔のようにするのが恥ずかしい。多分、そんな気持ちなんだと思うよ」

 現に、公の場では何の問題もないような親子関係に見える。話しかければ答える。気になることがあれば尋ねる。
 けれど、それ以外の時にどうしていいのか分からない。

 だから言うのだ。甘え方を知らないと。

 親子はそんな事務的な関係じゃない。心おきなく話ができる関係なはずなのに、そのやり方が分からないでいる。
 イリヤにはそれが壁のある関係に見えたのだ。