【長】黎明に輝く女王

 何が起こったのだろうか。右頬が痛い。触ってみると、ちょっと熱くなっている。あぁ、叩かれたのか。
 イリヤは自分に置かれている状況を、客観的に見ていた。

「それは恥ずべきことじゃないわ。人間じみた感情、それはだれしも持つものよ。貴方のいう醜い感情、それに傍にいたいという気持ちが好き、そして愛するという気持ちに変わるのよ。恋慕の情にね」

 でも。母親としては、イラっときたから、ぶたせてもらったわ、そう付け足して言った皇妃の表情はとても清々しい

ものだった。

「子が離れるのは寂いしいけれど、あの子の場合仕方ないと思うところもあるわ。なら、わたしや主人が納得するぐらいセリナを幸せにしてごらんなさい。セリナがそう感じた時、貴方の気持ちははじめて、醜い感情から喜び感情に替わるから」

 それを含め、あの子の傍に立つ、秘玉の主としての自覚があるか、その人は皇妃として、母親としてそう聞いた。

「これからは、自分にもセリナにも素直に生きていきます。この気持ちが無駄なものじゃないということを証明してみせます」
「ならいいわ。貴方にとっても、セリナにとっても、幸せな未来があることを願っている」
「……ありがとうございます」

 母とはこんな強い人なんだろう。イリヤには母なんて必要なかったから分からなかった。
 でも、今思った。母は子が大切だからこそ、厳しい現実も突きつける。甘い幻想だけでは、いつか辛い目に遭う。
 嫌われてもいいから、その子の幸せを切に願う者なんだ。

 だからこそ、聞きたいことがある。

「セリナが、家族に対して壁を感じているのはどうしてですか」