【長】黎明に輝く女王

「近くの絨毯にお茶のしみが落ちていたのですが、明らかに不自然でした。色や触った感じからして、おそらく飲んでいたお茶のはず。でも、そのしみは軽くですが、拭き取られていました」
「不自然……確かにそうだな」
「どうして? お茶をテーブルにおいてから、ふいたんじゃないの?」

 まだ幼いリュカには推論しながら考えることは難しい。それでも、必死に考えようとしていた。


「リュカ。もしそこで何もなければ、その後、お茶を飲んで片づけるでしょう? セリナの性格からしても、冷めたお茶をいつまでも飲み続けるようにも思えない。それに汚れたのなら、ただ拭くだけでなく、しみ抜きをするわよ、あの子」
「しかもお茶はほとんど残っていて、あまり飲まれていない。飲まずに仕事をするかと思っても、そうは思えない。休憩用のテーブルに置かれていた時点で、一息付くつもりだったのだと思いますから」


 一人ひとりが残された状況をもとに、いろいろ思い巡らせる。
 特に、父である皇王は眉間に皺をよせながら、酷く考え込んでいるようだった。


「もし零したのではなく、カップを落としてしまったのなら。第三者がカップを戻し、中にお茶を入れて、簡単に拭いただけかもしれない」
「そもそもあのセリナよ? 簡単に連れ去られるわけないわ。抵抗したり、大声で叫んだりするわよね。そんなことなく、連れ去るのなら、お茶になにか仕込んでいたとか?」

 でも犯人がそんなすぐにばれそうなことをするだろうか。お茶に睡眠薬などを仕込んだのなら、そのお茶は処分するはずだ。