皇王は今、執務室にいるらしい。普段なら夕食を取るために、広間にいるらしいが、やはり皇女セリナがいなくなったことに関係しているだろう。
イリヤは皇王の執務室がどこにあるか分からない。正確には一度セリナと言っただけで、憶えていない。リュカは分かるので、彼の案内のもと、足を進めていた。
そして、着いたかと思うと、ノックもせずに、勢いよく、中に入って行った。
「おとうさん!」
「リュカ……あなたは本当に猪突猛進ね、ノックをしないと驚くわよ?」
そんなリュカを迎え入れたのは皇妃、彼の母親だった。二人が一緒にいるのは珍しくないが、執務中は特に接することがないので、部屋の中に母親がいるのにリュカは驚いた。
「おかあさんもいたんだ」
「ええ、久しぶりに嫌な事件が起きたみたいだからね」
イリヤはその言葉にすこし違和感を感じたが、追求することはなかった。彼自身から追求しなくても、真実が見えてくるだろう。
皇妃は突然訪れたリュカとイリヤを追い返すこともせず、温かく迎えてくれた。
そして部屋の一番奥の椅子に座る主も、落ちついた様子で話を聞いてくれることになった。
「それでリュカどうしたんだ」
幼い息子でも真剣なまなざしで話を聞こうとする態度を見て、親子関係がどういったものなのか見えた気がする。
温かな関係、信頼しあえる関係、いろいろ言えるだろうが、イリヤにはどの言葉も羨ましく思えた。


