何事もない日常が少し動いたのは数日後のことだ。
 始まりはナーディアの一言ーー何かがおかしい。
 何かは分からないけれど、小さな変化があったようだった。

 それに合わせて、あたしに向けられた殺気がパタリとなくなった。
 どういうこと?
 疑うのに時間はかからなかった。

「セリナ、一度王宮に戻りなさい」
「それは、どういうつもりで」
「今回の異変、座標は王宮にあると思うの。だから一度戻ってみて。こういう変化は、フロウの方が専門だから」

 フロウ、別名・秘玉の管理者。この国の、ひいては女神の世界の維持を行うバランサー。
 真剣な面もちの中、不安な声色でナーディアは言う。
 彼女がこんなにまでなるなんて何があったのよ。

「取り敢えず事情が分かるまで神殿には来ないで」
「え、それひどくない」

 決して冗談のつもりで話していないのが余計にたちが悪い。
 こんなあたしでも意外と傷つきやすい。