飴色蝶 *Ⅱ*

「黙れ、もう、何も言うな
 カナメは、この私が連れ戻す
 お前らは、絶対に動くな
 アニキが作り上げた
 この組を、俺は必ず守る」

歳を重ね、また一段と貫禄が
出てきた正二。

彼の凄まじい迫力には、組員の
誰一人、歯向かう事はできない

「親を人質に捕られて、黙って
 などいられない
 皆の気持ち、よく分かるが
 少し冷静になるんだ
 ここは、私に任せてくれ
 
 ・・・さあ、イオリ
 一緒に来るんだ
 家まで送ろう」

正二の車に乗って、家路へと
向かう庵。

庵の隣で、何度も咳をする正二

庵は黙ったまま窓の外を見つめ
真っ暗だった空が、薄っすらと
明るくなる様子を眺めていた。

サイドガラスに手を翳し
触れる事のできない
幻想的な世界を見つめて
菫を想った。

彼女をベッドに置き去りにして
あの部屋を出て来ておいて
何もせずに帰るなど・・・

それで、いいのか?

こんなにあっさりと・・・

いや、違う。

俺に帰る場所など無い。