街で君の唄を聞いた


追い付かなかったら、手を伸ばしても掴めないままで終わって、結局は無くなる羽目になる。
暗い中に溶け込んで、何処にいるのかすら判らなくなる。


何処にいると問いかけても答えない。

寧ろ手を振ってさよならしてる。





宿に着いて、ゆっくり進むコルクを見ていると、それが更にスローモーションに感じる。
背がデカくて、しっかりとした肩幅なのに、何故かさっきから小さく見えてしまう。

…何で。



「レイヒちゃん、お邪魔するで」

「あ、うん」



そう言って部屋に入った途端に、コルクは床に胡座をかいて座った。

少し俯いている。

伏せた目は暗くて、少し長い睫がそれを隠す。



「…座らへんの?」

「や、座る」



コルクの正面に胡座をかく。



「どこから話したらええんかなあー」

「どこでもいい。兎に角話せ」

「…はは」



コルクは哀しい笑顔を浮かべて、話し始めた。
今の彼は、弱々しい。


今にも泣きそうなのだから。



「俺にはな、いたんや。大事な人」

「うん」

「凄く大切な存在。離したら二度と戻ってこないような存在。だからずっと何かで結んでた」

「うん」

「ホントに好きだった。この世界の中で、よく見つけられたと思う。人生って一期一会やけど、その中からってのが、また凄かった」



淡々と話し続けるコルクは、活気がない、というか元気がない。
目だってずっと伏せてるままだし、一向にこっちを見ようとしない。



「何の襲撃も無かった。戦争ってのがどんなに怖いのかすら、平和ボケだった。ふわふわしてた。全部。だから油断し過ぎてたんや」

「うん」

「ある日、俺は他の大陸へ調査へ行かされた。勿論彼女は連れていけなかった。何があるか判らんしな」